しかくについて

最近は大学の図書館に行くようにしています。
ある程度、生活の強度を上げるよう医者のセンセイに言われました。
まあ、言われる前から行ってるわけですけれども。


家から自転車で駅まで。
駅から一度乗り換えて目的地へ。
駅から大学までは少し上らなければなりません。
坂道を上り、階段を上りながら大学へ向かいます。
それにしても、なかなか続きますので少し息が上がりそうになります。
バリアフリーが叫ばれる昨今、あまりご老人には優しくない住宅街を上へ上へ。
帰りには、ちょっとした景色が見えます。山のほうから街が一望できるかたちになるわけです。
僕個人としてはその景色が好きです。
同じ景色でも、天候や時間によって色んな姿を見せてくれます。
まあ、近くの某国立大学のそれと比べると、大したものではありませんが。


階段を上りきったら、なだらかに上る道を進みながら、時々角を曲がりながらして比較的大きな道に出ます。
その道に出たら、あとはまっすぐ進むだけで大学に突き当たります。
隣駅からであれば、多少遠回りながらも平坦な道があるそうです。
なので、この学校の学生の何割かはわざわざ隣駅まで乗って、そこから登校したりしています。
しかし、僕はそちらのルートを使いません。
まあ多少は運動のためにも歩いたほうが良いと思いますし、閑静な住宅街をふらふら歩きながら行くのもオツなもんです。
さらに言うならば、僕は隣駅から学校までの道順が分かりません。
だからそもそも使おうにも使えません。


春になれば桜が満開になりそうな並木道を歩きつつ、消防署や小学校か中学校か分かりませんが、そのような建物を通り過ぎれば門にたどり着きます。
よっぽどな時間でない限り、門は開いていますのでそのまま入ります。
一応、最初に来たときは門のすぐ横にある警備員詰め所みたいなところで入って不審者扱いして捕らえられたりしないかを確認しました。
別に誰でも入れますよ、と苦笑しながら言われましたが、それはそれでどうなのかという感じはします。
確かにいちいち一人ずつチェックするわけにもいきませんが。
最近はとかく物騒なことも多いですから。気をつけることに越したことはありません。
とまあ、以前にそのような言質をとっているので何食わぬ顔をしてキャンパスに入ります。


キャンパスのシンボルであろう時計台が見える中央芝生の横を通りながら図書館へ向かいます。
現在は春休み中ですのでちらほらと人が見える程度。
サークルかなんかで来ているんでしょうかね。
大学院生とかかもしれませんが、文系の方の大学院生活は存じ上げません。
どちらにせよ、よほど何かない限りは話すこともない人なのでどうでもいいといえばどうでもいいですが。
芝生の広場を出たすぐのところに図書館はあります。
図書館はさすがに誰でも入ってください、というわけには行きません。
カードリーダー付き開閉扉、駅の改札のようなものが入り口カウンターあたりに設置されています。
僕は以前に卒業生向け入館証を作成しておりますのでリーダーにカードを通します。
どうぞお入りくださいませと言わんばかりに開くドア。うむ、苦しゅうない。
ちなみに一般の方も入館証を作ることは可能みたいです。お高いようですが。


さて、さっきも述べたように現在春休み中ですので、中は閑散としています。
いつも通り、大きな吹き抜けの横を通り過ぎて窓際の六人は座れる大きな机に座ります。
小さな机や、ちょっとしたパーテーションが付いた机もありますが、別に人もいないのでどうせならと大きいほうをいつも使います。
持ち込みの本を取り出して読書を開始。
別に図書館の蔵書目当てで来ているわけではありません。
日によって持ってくる本はマチマチですが、今日は本当にただの文芸本です。


読みふけること数時間。
窓にはブラインドがかかっていますが、完全に閉じているわけではなく夕日の茜が射し込んでいます。
そろそろ帰ろうかなと思ったそのとき、少し違和感を感じました。
部屋のずっと奥のほう、窓際の辺りがやけに暗く見えました。
確かにそこの蛍光灯は切れているようで、多少は暗くなっていてもおかしくはないのですが、もちろん全ての蛍光灯が切れているわけもなく、さらに窓から光も射しているのでそこまで暗くはならないはずです。
少し気になったので、そちらに足を向けました。
近づいてもやはりその一角だけはやけに暗く、近づいていくほどに何か気味が悪く感じました。
暗がりにたどり着くまで、さほど時間はかからないはずがやけに長くかかった気がします。
そこは明らかに暗く、すぐ後ろにあるはずの明かりがまるで無いかのようでした。
原因は窓際の机の下のあたり。
そこだけがほとんど闇といってもいいほど暗く、不自然な黒をしていました。
背筋にゾワゾワしたものを感じながら、もう見なかったことにして帰ったほうがいような気さえしてしまいます。
しかし、なぜかその闇の在り処を見てみたいという誘惑にかられて、体は自然に机へと向かいます。
机の下からにじみ出る黒はあまりにも異質で、しかし椅子によって奥が見えません。
なので僕はその椅子を恐る恐る闇から引き出し、机の下を覗き見ました。
そこには何かがありました。見たのは一瞬でした。まず視覚的に捉えたのは、立方体でした。周りの暗闇よりもより暗く。それはあまりにも不自然な黒で。立方体だけがポッカリと浮いているような。しかしそれは正確に言うと立方体ではなく、なにかそこから枝のようなものが突き出していて上下左右に突き出していて立方体自体を持ち上げていて立方体だけれども立方体にみえないそれはやはり立方体ではなくてところどころ凹凸もありやはり立方体ではありません立方体だとおもっていたそれは明らかに立方体ではありませんでしたそれの最大の違和感は一箇所だけ黒でないところがありました。
目です。
目だと認識したと思った瞬間にそれと目が合いました。


気が付くと、元々いた席に座っていました。
少し隙間の開いたブラインドからは茜が射し込んでいます。
あわてて左右を見回した後、暗がりのほうを見ました。
そこには特に変わりなく、机があり、壁があるだけでした。
暗くもありませんし、蛍光灯も切れていません。
ああ、そうかまた変な夢を見たんだ。と思いました。
最近はうたたねをするとあまり良くない夢を見ます。なまじ意識があるせいか、少しの間鮮明に思い出してしまうので性質が悪いです。
しかし、学生がいなくて良かった。明らかに挙動不審だったと思います。
一応、件の机へと足を運びましたが、やはり何もありません。
椅子を引いて、下を覗き込んでも当然何もありません。
まったく、確認までしてしまう自分が情けないです。
そろそろ暗くなりそうだったので、さて今日はどんな景色が見れるかな、と思いつつボクは図書館を後にしました。